旅するペーパーくん

ペーパーくんの癒しとヒラメキの日々

『みかん』の町

マサは、外部の生産管理のシミちゃんと現場検証から会社に戻った。8種類もあるパスタソースの箱をすべて検品しなければならなかった。かなりの数をこなすための人員と真夏の倉庫での作業に苦慮したが、夏休み前には完了できてスッキリと休みを迎えられた。夏休み明けに、生産管理のシミちゃんから誘われてお疲れさん会を開いてくれた。シミちゃんとは同じ三ケ日の町に住んでおり、行きつけの店をいくつも紹介してくれていた。いちばん好きだったのは浜名湖が見える居酒屋だった。いつも閉店時間まで飲むとシミちゃんはベロベロになり、家まで送っていくのも大変だった。それでも憎めないから不思議だった。高校時代は、マサと同じ野球をやっておりピッチャーだったようだ。ジャイアンツのファンでひと回りも年が違うが、江川の活躍していたことなども詳しくて、クルマで高速道路を移動中もずーと野球の話で花が咲くこともあった。秋の『みかん』の収穫時期になると実家の手伝いで大変なことも毎年話してくれた。結果的にマサが三ケ日を離れることになった最後のシーズンに『みかん』の収穫をやってみないかと誘ってくれた。『みかん』畑の広さには驚かされた。早朝に集合すると、いかにもベテランのおばちゃんやマサのような素人のバイトが20名ほど集まっていた。腰には布製の袋をぶら下げて、『みかん』切り専用のハサミを持たされた。ハサミは『みかん』を傷つけらいように、先に向けてアールがつけられていた。合図とともに一斉に『みかん』切りが始まった。マサは夢中になってハサミを動かした。腰の袋がいっぱいになると、近くのプラスティックコンテナーに入れると軽トラックが回収にくるシステムになっていた。昼食のお弁当が支給され休憩後に作業が開始され、夕方まであっという間に過ぎた。『初めてにしては上手だね』と褒められて気分よく『みかん』切りを終えた。日頃ペーパーリーフアートでハサミを使い慣れているお陰だとも思った。そんな『みかん』の町とお別れの時もすぐやってきた。