旅するペーパーくん

ペーパーくんの癒しとヒラメキの日々

『恋に破れた』瞬間

マサは、一週間分の『半分、青い。』を見るように態勢を整えていた。秘書の妻から『リツ君、結婚したよ!』と、『なんで、いっちゃうの』とマサは、ドラマの肝心な部分を伝えられてガックリしてテレビを見始めていた。24才になった2人が久しぶりに再会、リツがスズメに『結婚しよう!』と告白するものの、漫画家で波に乗ってたスズメはあっさり断ってしまい、リツが『恋に破れた』瞬間だった。マサは、リツの立場になって同じ24才の頃、同じようなシーンを思い出して涙を流してしまっていた。『あなたにさよならといえるのは今日だけ♩』で始まるかぐや姫や風が歌った『22才の別れ』のヒットしたのもこの頃だった。マサは、就職して2年目の冬、名古屋と東京の遠距離恋愛をしているつもりだった。新宿の紀伊国屋で待ち合わせをして、近くの喫茶店に入った。いつもニッコリ笑顔がまぶしかった彼女が暗い顔で『別れましょう!』あの『22才の別れ』の歌詞のように突然すぎる言葉だった。あまりの出来事に、喫茶店をひとり出て行くと、後ろから彼女は小銭を渡そうとしたが、そのまま道路に『チャリーン』と投げ捨てる恥ずかしいマサがいた。新幹線でどうやって帰ってきたのか全く覚えていない。ただ覚えているのは、夜の柳ヶ瀬にある店をはしごした最後の店で酔い潰れて追い出された情けない姿だけだった。これが『恋に破れた』マサの瞬間だった。半年後だったか、1年半後だったか、もう忘れてしまったがバレンタインデーの日に届いた封書の中には、ペーパーの上に書かれた『あの時は、ごめんなさい』の文字に当惑していた。彼女とスズメの気持ちがオーバーラップして、また涙が溢れてきてしまった。彼女と再会したのは今から数年前の大学テニスサークルのOB会で『こどもは何人?』と笑顔で聞く姿は昔のままで、マサが冗談まじりで答えると、ポーンとジャケットの肩を叩いてきた。この肩を叩かれた瞬間で、すべてがやっと吹っ切れたような気がしたマサがそこにいた。