旅するペーパーくん

ペーパーくんの癒しとヒラメキの日々

最後のハードル

マサは大きなアート作品の企画が、行ったり来たりして結論がでないので少なからず苛立ちを感じていた。1週間ぶりに浅野温子似の職員ハットさんに会えたので、これまでの経緯を説明した。「アート作品は100号から50号に、自分が作らず子供達による参加型に変更します。」と伝えると「なかなかいいと思います。」と笑顔だった。費用が少しばかりかかると付け加えると「企画書にまとめてほしいです。」と館長に承認が必要なことを教えてくれた。関門がいくつもあるなあ!とマサは会社勤めの頃を思い出していた。企画書はこれまでたくさん書いてきたので苦にはならなかった。イーゼルとキャンバス木枠をスマホで撮影し、本に載っているゴッホのひまわりをスキャナーでMacに取り込んで、企画書をA4サイズ1ページに仕上げた。次の出勤日に企画書にコメントを添えて、まずは入り口の演出担当の横さんの机の上に置いて帰った。その次の出勤には企画書に付箋が貼られて「素晴らしい企画です。是非進めてください。」とのコメントは嬉しかった。ちょうど次の日は、コロナまん延防止措置により青少年会館の閉館時間の短縮も決まった。幸いにも出勤時間も3時からとなったので、6人の職員全員と顔を合わすことができるようになった。次の日に席に着こうとすると「ちょうど館長もいるので、企画書を見てもらうといいですよ!」と演出担当の横さんがフォローしてくれた。職員のハットさんと館長の間に入って、それぞれに企画書を渡して説明を始める。「ゴッホなど名画をペーパーリーフで描いてもらう参加型のアートです。」と短く伝えると「わかりました。担当の横さんと打合せてやってください。」と理解の早い館長だった。最後のハードルをやっと越えたと安堵するマサだった。

参加型アート

マサは、秘書の妻に作ってもらった弁当をトートバッグに入れて青少年会館へ自転車で向かった。5分も走ると駐輪場に着き、自動ドアが開くと大きな柱時の針が4時半過ぎを指していた。これから5時間の勤務になるので、弁当箱は冷蔵庫に入れてからデスクに座った。6人の職員が交代でマサとペアになって仕事をする体制になっていた。この日は元女性教師の横さんとの組合せとなり「今日もよろしくお願いします。」とマサは元気に挨拶をした。浅野温子似の職員ハットさんから聞いたらしく「入り口を演出するアート作品を是非お願いします。」と元教師らしく丁寧な口調だった。入り口には定期的に大きなパネルに手作りメッセージが貼られ、現在はSDGsをテーマにした内容を伝えている。2ヶ月前にはパネルの前にウミガメを作ってほしいと依頼されていた。段ボールを使って8角形の立体にして、アタマと手足に膨らませたレジ袋を入れてウミガメを制作してあげた。「これは素晴らしい!」と背中に乗せた甲羅に見立てた6角形の段ボール板を見て「クレヨンを置いて、甲羅に好きな色を描いてもらうと面白くなる!」と子供たちに参加できるアイデアを膨らませてくれた。この10ヶ月の間に、マサの特性をかなり見抜いていたようだった。「ちょっと倉庫に行きましょう!」と連れて行かれると「ここの色画用紙は好きに使っていいですから」と今まで使ったことがない大きなサイズの色画用紙が色とりどり棚に積んであった。「これは有り難いです。いろいろ考えてみます。」とウキウキが止まらず笑顔で応えた。背中合わせの席に戻り振り向きながら、ちょっとしたアイデア会議になった。「入り口に飾る大きなアート作品は、ウミガメの甲羅のように子供達で作る参加型アートにしませんか?」と提案すると「それはいいかもしれません。それでいきましょう!」とすんなりと方向が決まった。「ペーパーリーフのプチッテを使うので少しばかり費用がかかりますが、、」と肝心なところは付け加えると「費用面は職員のハットさんにしかわからないので聞いてくださいね」と次に浅野温子似のハットさんに会える日が1週間後の手帳を見るマサだった。

大きなアートへの挑戦

マサは新しい年2022年を新たな気持ちでスタートしていた。昨年末に市役所から発行された広報誌に掲載されたマサの活動をグループLINEでシェアしてくれていた。一番嬉しかったのは、マサのパート先で目の前に座っている浅野温子似の女性からのコメントだった。「大きな顔写真入りの記事が載ってますよ!」と丁寧にピンクの付箋まで貼って広報誌を渡してくれた。「ちょっと大き過ぎますよね!」と照れくさそうに答えた。ここは市が運営主体の青少年会館で、昨年4月より週2〜3回の受付け業務をマサはしていた。仕事はコツコツと真面目にこなしていたが、最初の動機は別なところにもあった。マサのやっているアートの世界を広められる機会となることも期待していた。もう10ヶ月も経とうしていたが、なかなか糸口が見出せていなかった。勤務して間もない頃に「アート教材プチッテ3組、譲ってください」とプレゼントに使いたいと浅野温子似の女性からオーダーをもらっていた。年末にもその女性から「100号サイズの作品を作れないですか?」と青少年会館の玄関に飾れるようなペーパーリーフアートを要望をしてくれた。「制作時間は1ヶ月はかかりますよ!」と少しばかり腰が引けた返答をした。「それじゃあ、玄関を演出している横さんに相談してみます」とかなり前向きなコメントに驚いた。横さんは元小学校の女子教諭で国語を担当をしていたことも聞かされた。年末からの休日にいろいろと思案してみることにした。100号サイズとwebで検索すると1.62m×1.3mと記述されたており、改めて巨大なことを認識した。年末の大掃除で、50号サイズ1.167m×0.91mのキャンバス木枠とイーゼルが倉庫に眠っていたのを見付けていた。以前に油絵教室に通っていた時にマサが使っていたものだった。近くのホームセンターに行ってこのキャンバスに貼る大きなサイズの紙を探していると、ロール状の障子紙がピッタリ合う寸法があった。この障子紙を50号サイズのキャンバス木枠にテープで留めれば「紙製のキャンバス」が出来ると久しぶりにヒラメキを覚えるマサだった。

可愛い「好き」

マサは毎日が日曜日、夏休みの日々を過ごしていた。それでも定期的なアート講座のための活動も継続していた、そんな中、春休みに経験した児童クラブからオファーがあり夏休みにも来てほしいと連絡が入り快諾していた。初日に教室に入って行くと「マサ先生!」と子供たちが声を掛けてくれた。朝8時前に家を出発して帽子を被り、自転車を10分漕いで行くと、朝の日差しも強かったために汗が溢れ出した。「マサ先生、これ巻くと涼しいよ!」と水道水で濡らして絞った布を巻くことを教えてくれる。女性の支援員さんからは「うちわ」を使うように差し出してくれる。午前中のスケジュールは宿題と勉強時間、チャレンジ遊びと自由時間、食事時間とキッチっと決められていた。初日は汗を拭きながらあっという間に過ぎた。「マサ先生、お弁当いっしょに食べよ!」と手を引っ張る1年生の男の子が「お弁当見せて!」と言うので秘書の妻が作ってくれたことも伝えながら見せた。「来週は水・木と2回、自由時間にペーパーリーフ体験をお願いしたい」と支援員さんに言われて「喜んで!」と笑顔で返事をした。翌週、首に冷感タオルを巻き、アート講座で作った涼感うちわとアート教材を自転車カゴにいっぱい詰め込んで教室に向かった。「ペーパーリーフをやりたい人?」と支援員さんが声を掛けると7人の女の子が集まってくれた。この間のアート講座で女子大生が作った「プリンアラモード」の作品を見せると、4人はそれを真似て作りたいと積極的にやり始めた。翌日はポストカードにプリントして一人一人に手渡すと「今日もやりたい!」と笑顔を見せてくれる。「今日もやりたい人?」と声を掛けてくれると、なんと9人の女の子が手を挙げてくてた。「今日は動物のキャラクターでラミネートカードにするよ!」とサンプルから選んでくれた。みんな時間通りにやってくれそうだったが、1年生の女の子だけは12時になっても上手くできず泣き出してしまった。ちょっと戸惑ったが、手伝ってパンダのキャラクターを仕上げた。本当は自分が持っているぬいるぐみ「芝犬3兄弟」を作りたかったが思うようにいかないから泣いたようだ。少し弁当の時間が遅れたが、泣きながら食べる様子を見ながら「また来週ね!」と別れを告げると、隣に座っている女の子が「この子、先生のこと好きだよ!」と代わりに答える二人の姿に、ポッとハートが熱くなるマサだった。

新しいオファー

マサは、そろそろプレゼン結果が送られてくるとソワソワしていた。ポストに郵便が投げられた音がしたので、急いで玄関まで足を運んだ。A4サイズの厚みのある封筒だったので、いい便りであることがわかった。それでもハサミを入れる手が震えていた。「市民活動支援事業に認められました」の文字を確認すると、安堵感で震えもおさまった。秘書の妻に伝えると「よかったね!」と一言だけで、喜びを抑えているのか冷静な返答だった。30枚程ある書類に目をやる中に「熱心な活動により着実に結果を積み重ねておられます。図工が苦手な子でも気軽に取り組めるものなので、これをきっかけに未来のクリエイターが誕生し、さらなる活躍を期待します。」と審査員のコメントに喜びと感動が込み上げてきた。運営委員のメンバーやこれからお世話になる美術大学准教授や委託業者へメールを送り、これまでの感謝とこれからの協力のお願いを伝えて気を引き締めていた。コロナの影響でWeb審査となり、プレゼン動画をホームページに1週間アップしての審査となっていた。「出張アート講座もどんどんやっていきます。」と力強くコメントした動画をロッキーeスタジオで制作していた。このプレゼン動画は一般の人にも公開されており、この1週間の間に不思議なことが起きていた、「児童クラブの支援員をやっています。アート講座をやってもらえませんか?」と支援員の先生6名に作り方を教えてほしいという電話だった。この春にテストでやった児童クラブからの紹介で知ったことも伝えてくれた。もう一つも、突然のメールだった。「成人講座を企画しています。お願いできませんか?」と隣の市の公民館の管理者であると記載されていた。こちらは地元TV局でやった作品展を見たことも付け加えられていた。プレゼン結果の前から、2つの新しいオファーに、新たなステージに入って行くのを感じるマサだった。

新しいスタジオ

マサはコロナにより緊急事態宣言が6月20日まで延長になって困っていた。岐阜市が運営する全ての施設が休館となり、事務所にしているメディアコスモスも利用ができなくなった。やむを得ず5月のアート講座もオンライン限定で自宅を使って開催することにした。新しく購入したMacも使って、2台のパソコンでZOOMアプリで参加者を招待した。秘書の妻には同じ自宅にいながら別の場所で、新しいMacの前で参加してもらうことにした。久しぶりの参加の女子イーナさんも含めて、華やいだ雰囲気の画面となった。良きパートナーのアラキンが「いい感じの絵があるねえ1」とマサの後ろに掛けられた油絵を見て褒めてくれたので満更でもなく嬉しくなった。「ゴッホの作品だけど買う?」と冗談を投げかけると笑いと笑顔がすべての画面から見られると、マサも満面の笑みになったのがわかった。アート講座が終わると6月5日には来年度の市民活動支援事業の審査会があり、公開プレゼンのための準備を進めていた。「コロナの影響により公開プレゼンを変更してWEB公開の審査会にします」と突然のメールが送られてきたので動揺するのがわかった。「どうしたら審査員に理解してもらえるだろうか」と思案したが、動画を使うことがベストであると結論を出した。Macの動画アプリiMovieを使うとできることは理解していたが、まだテクニックがともなっていないこともわかっていた。データ提出期限が3日後に迫っているので、勉強しながらでは時間がなさ過ぎた。ZOOMの機能に録画機能があると聞いていたので、パワーポイントで作ったプレゼン資料を使って一人プレゼンを記録すれば動画が出来上がると閃いた。A4のコピー用紙を10枚用意して、黒いマジックペンで大きな文字でプレゼンコメントを書いていった。秘書の妻に、この10枚の紙をパソコンの後ろから1枚ずつ出すように頼んだ。NHKのアナウンサーの気分になってカンペを読み上げていく。1回目はスタートから言葉を噛んで失敗、2回目はカンペを落とす妻ににっこり笑顔で返してストップ。3回目は10ページ最後まで読み上げて、5分以内におさまってOKを出した。ZOOMを使ってオンライン講座や動画撮影まで出来上がる新しいスタジオを「ロッキーeスタジオ」とマサは名付けた。

新しいパソコン

マサは4か月ぶりにブログの更新をし始めていた。今まではスマホを片手に文字を入力していたが、初めてパソコンを使うことにした。昨年4月コロナによる緊急事態宣言が発出されて、ZOOMによるオンライン講座をするためにWIindowsパソコンとカメラとスピーカーなど購入していた。その1年後コロナの状況も4波により感染拡大がなかなか収まっていない中、昨年と同様にオンライン限定で講座を開催していた。秘書の妻も自分用が欲しいと言うので、もう一台パソコンを買うことにした。家電量販店に行くと、以前から欲しかったMacBookに触れていると「いかがですか?」と店員に薦められた。「今Windows使っていますが、互換性はどうですか?」と質問すると「OfficeのMac版があるので大丈夫です」との返答にあっさりと購入を決断した。25年ぶりのMacを手にして身震いをしていた。IPhoneMacは写真が同期できるなど、Apple製品同士の相性の良さは良きパートナーのチカちゃんからも聞いていた。早速チカちゃんの事務所へ行ってMacの使い方のレクチャーをもらうことにした。「USBが反応しないけどどうしたらいい?」と聞くと「0120・・」とAppleのお客様相談センターに電話すればいいことを教えてくれる。すぐその場で電話すると、想像以上に丁寧な対応に感動して安心もした。「Appleはすごい!使いやすいし、消費者の立場に立って対応してくれる」とベタ褒めだった。その足で高島屋にある大垣書店に行き「はじめてのMacパーフェクトガイド」という本も購入した。これまで使ってきたエクセルやパワーポイントのデータも簡単に変換できることが記載されていた。本の通りにWindowsパソコンからLINE経由でMacへ転送して、データがうまく開いたので喜びが溢れる感じだった。しばらくブログから離れていたが、これからは新しいパソコンのMac前で新しいブログを書いていこうと気持ちを新たにするマサだった。